4月11日、政府は原発回帰への「エネルギー基本計画」を閣議決定しました。福島第一原発事故が今だ収束せず、十数万人の人が避難生活で帰る家もない状況で、まるで福島の事故がなかったかのような方針に逆戻りです。原発を「ベースロード電源と位置付ける」とし、核燃料サイクルも推進する方針です。あれだけの悲惨な事故を起こし、何十万年も放射能を出し続ける核のゴミの処理方法も全く確立していないのに、まだ原子力ですか? 本当にこの国はどうなっているのでしょうか!
昨日の北海道新聞の紙面に載っていた有馬朗人(元東大総長、文部大臣、科学技術庁長官、理化学研究所理事長も!)のコメントには、開いた口がふさがりませんでした。「原発が重要電源と位置付けられたのは当然。地球温暖化も急速に進んでいて、原子力も活用しなければ乗り切れない。原発再稼動を早く行うべきだ。」ときました。
こういうエセ科学者が日本の科学界のトップに立ち、政界を動かしてきたから、日本がおかしくなったのだと断言してもいいでしょう。なぜ私が彼をエセ科学者と呼ぶかというと、「地球温暖化も急速に進んでいて、原子力も活用しなければ乗り切れない。」というくだりです。まだこんなことを言っているか、と驚くのですが、こういうことを言うからには、いくつものことが前提になっていなければなりません。つまり・・・
1.地球温暖化が、現在も進行中である。
2.地球温暖化は、地球環境を壊す問題である。
3,地球温暖化は、化石燃料などによる二酸化炭素の排出が大きな原因となっている。
4.原子力発電は、二酸化炭素を排出しない。
5.よって、原子力発電は地球温暖化防止になる。
6.原子力発電以外に、地球温暖化を防止する重要な発電方法はない。
以上6つのうち、一つでも事実でなければ有馬氏のような発言は間違っていることになります。しかし、上の6つとも、決して実証されたものではなく、すべて反論や異論があるのです。私も、すべて疑ってかかっています。6つとも全部ウソではないにしても、いくつかは明らかにウソだと断言できそうです。
1.確かにこの100年ほど地球温暖化は進行してきたが、この10数年は温暖化の傾向ははっきりしておらず、もはや温暖化は止まり、逆に寒冷化(小氷河期)に向かっているという説もある。
2.地球の温暖化・寒冷化は、人類が環境を変えるほど繁栄するずっと以前から、主に太陽の活動状況に応じて変化したものであり、それ自体は良いとか悪いとか言うような問題ではなく自然現象である。温暖化により気象が過酷になったり、海水面が上昇して土地がなくなるというような問題はあるかもしれないが、一方で今まで寒冷なため農業生産できなかった地帯で農業をできるようになるというようなメリットだってある。
3.二酸化炭素の濃度と、大気温度の過去のデータ変遷をみると、温度の上昇がやや先行しているようにもみられる。このことから、二酸化炭素の上昇は、地球温暖化の原因ではなく結果だという説を唱える人も少なくない。実際に、温暖化により海水温が上昇することによる二酸化炭素の放出量の増大は相当量であると考えられるし、私が注目しているのは植物の呼吸量増大による二酸化炭素排出量の増大である。トータルでみると植物は光合成により二酸化炭素を吸収して酸素を排出しているのだが、この光合成は温度が一定以上になると頭打ちでそれ以上二酸化炭素を吸収しないが、呼吸量は温度が上がれば上がるほど増大して二酸化炭素の排出が増加するという性質がある。従って気温が高くなるほど植物による二酸化炭素の同化量が鈍るので、地球全体の二酸化炭素濃度も多くなるはずである。この辺を量的に試算した人がいないので何とも言えないが、火力発電や自動車による二酸化炭素排出のレベルを超えるのではないかとも思う。
4、原子力発電は、核反応による発電そのものは酸素による燃焼現象ではないので二酸化炭素の排出をしない。しかし、ウランの採掘から核燃料の製造と運搬、発電所の建設から運転維持、核廃棄物の処理に至るまで、多くのところで二酸化炭素の排出をしており、原発は二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーというのは全くのウソである。
5.仮に、原子力発電が火力発電より相対的に二酸化炭素の排出量が少ないとしても、それだけで温暖化防止に役立っているとは言えない。現在のところ原子力発電というのは極めて非効率的な発電方法であり、核反応によって生まれた熱のうち、電力に転換されるエネルギーはおよそ3分の1に過ぎず、3分の2は熱のまま外界に放出している。日本の原発では、ほとんどこの熱を海に逃がしており、海水温の上昇と共に、大気温も上昇させているわけで、二酸化炭素を減らした分による温暖化防止とどちらが大きいのか、誰も説明してはいない。
6.発電方法など原子力以外に、いくらでもある。再生可能エネルギーの分野はまだまだ色々問題もあるが、石炭・石油よりは二酸化炭素の排出量の少ない天然ガスは、まだまだ資源として豊富(ウランはもう30年くらいで枯渇すると言われている)であるし、コンバインドサイクル発電など、かなり効率の高い発電方法も確立しているので、当面はこれでしのげるし、危険で廃棄物の捨て場のない原子力を維持しなければならない理由はエネルギーの観点からは全くない。あるとしたら、それは建前の裏にある本音として軍事目的以外に考えられない。自民党の石破などは、はっきりそう名言している・・・
では、なぜ有馬はこんなデタラメを根拠に原発が重要だと言い張るのでしょうか? まあ原子力ムラの利権構造にどっぷりつかっているからなんでしょうが、もし原子物理学者として少しでも良心が残っているのなら、あなたのような人たちのせいで大事故を起こした福島原発の一刻も早い収束と廃炉のプロセスを確立し、捨て場のない核のゴミの処理問題の解決方法についての研究に打ち込むべきでしょう。原発再稼動など、とんでもありません!!!